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【感想】篠谷巧『夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体』(ガガガ文庫)

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 未知の作家の作品を、新刊を買ってまで読もうとするには、なにかしらのハードルを超えなければならない。もちろん作る側は、読者側のそんな事情など百も承知で、様々な手練手管を使ってセールスポイントをアピールしてくる。印象的なタイトル、魅力的な表紙のデザイン、わかりやすくてインパクトのあるあらすじ、◯◯賞受賞作! などなど。最終的には、そういった情報を、己の好みによって形成された直感というやつを通して眺めたとき、あるいは手元に置こうと決断し、あるいはスルーでいいかと判断する。

 私の場合は、青を基調とした表紙イラスト、夏という季節感、宇宙飛行士の白骨死体というワーディングから推測できるSFミステリ臭……もうこれだけで充分だった。我ながら作家と編集部の意図した以上に簡単な読者なのだと思う。こういうのが好きなんだろ? はい、こういうのが好きなんです。

   

 本書は、第18回小学館ライトノベル大賞・優秀賞を受賞した『星を紡ぐエライザ』を改題の上刊行された作品である。緊急事態宣言による日常の変化と分断、情報技術の発達による現実感の後退といった、2020年代前半の現実を背景に備えた、いまだからこそ書かれた小説だ。いつのまにか疎遠になってしまっていた幼馴染の4人が、高校最後の夏に最も良かったときの関係性を取り戻そうと奮闘するストーリー。これぞ王道の学園もの、といった印象を最初こそもったものの、なにが王道なのかという気もする。非現実的な導入部をもってはいるが、マンガ・アニメ的にありがちな設定やファンタジー要素、ラブコメ要素はかなり控えめである。そう考えるとライトノベル作品としてはむしろ王道から外れた作品なのかもしれない。

   

 ストーリーの面白さはさることながら、本作が意図する物語の扱い方とそのメッセージ性に強く心を打たれた思いがする。物語が現実を侵食していき、最後には現実を回復していくという流れ。構成としては、この流れが幾重にも重なり合うことで、登場人物たちの行動に一貫性と説得力が出て、ストーリーの展開や解決に納得感が生まれている。

 さらにこれは本作のもつテーマ性を支える基礎になっている。物語のように生きようとしても、他者との関係の中で生きようとするならば、他者にはその人自身の物語があるわけで、ぶつかって、悩み、苦しみ、わかりあえず、離れていくこともある。人はいずれ現実に立ち戻らなければならない。しかし、物語だけでは人は生きてはいけないが、物語なくしては生きる意図が見えなくなってしまう。

 第三章の神社のお祭りの場面で示されたように、繋がっているという感覚もまたやはり個々が勝手に想像しただけの物語に過ぎないのだろう。ただ、それがあるからこそ行動を起こすことができる。そこにまた物語が生まれて、そしてまた現実へと戻っていく。いつか遠い未来で振り返ったときに自分の人生を肯定できるように、そういうふうに生きるんだと、この作品は優しく語りかけてくれるような、素敵なお話なんだと思って、ところどころ涙ぐみながら読み通した。

 私たちが生きている現実世界と地続きの世界観で描かれる学園ものだから、まさにこの時代を経験した十代の読者には共感するところの多い作品であろう。そして、かつて若者だった、あの頃のライトノベルで育った読者にとっては、懐かしいというだけではない、また違った感興を喚び起こす作品であるように思う。